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相続に関心のある地主の方へ

今回は、広大な土地を保有する地主にとって避けて通れない相続税の問題について、どのような対策ができるのかについて解説させていただきます。

地主の相続税について

先祖代々から引き継いだ広大な土地を保有している地主に相続が発生した場合、その相続人は多額の相続税を払わなければなりません。

もしも現金による一括納税が難しい場合、保有する土地そのもので納税する物納や、利息を払いながら分割で納税する延納という方法も選択できますが、処分が難しい土地だと物納が認められなかったり、相続人に一括納付する資金力がないことを証明できないと延納が認められなかったりするなど、適用のハードルが高いため、予め納税資金となる現金を確保しておかなければなりません。

相続税の納税に備えて予め準備しておくべきことは、大きく分けて2つあります。

一つ目は、土地に関係する相続税課税価額をなるべく低く抑えて相続税そのものを安くすること、二つ目は相続税の納税資金を現金等で用意しておくか、あるいはすぐに売ってお金に換えられる土地を用意しておくことです。

以下、2つの準備を実現するための土地の活用方法を検討していきます。

土地の活用方法

土地の相続税評価額は、第三者に有償で利用させているかそうでないかによって評価が変わってきます。

第三者に土地を貸している場合、その貸付の形態によって処分価値が異なります。

小作人に農地を貸し付けている場合や駐車場として貸している場合などは、比較的安価な立ち退き料を支払うことで処分(売却)することができます。

一方、第三者に家を建てさせている場合には、建物の所有者に家を放棄させて立ち退かせなければならず、土地を処分するためには多額の立ち退き料を払わなければなりません。

貸地の相続税評価は、更地の評価額からその権利を控除して求めるため、単なる駐車場なのか、他人の家の敷地なのか、土地を借りている人の権利の強弱によって評価額が変わります。

その結果、借り手の権利が強いと土地の評価額は低くなりますが、反面、売るのに多額の費用が掛かるため、換価が難しくなるのです。

本ページでは、相続税納付額の確保のために自用地として保有する場合と、相続税の税額そのものの減価を狙ったアパート等の建築についてそれぞれのメリットとデメリットを検討します。

1)自用地

自宅の敷地や未利用地のように、処分するのに立ち退き料を支払わなくていい土地を「自用地」と言います。

親族に無償で家を建てさせたり、時間貸駐車場や短期契約の月極貸駐車場に供したりした場合等、一般的に立ち退き料等が発生しないものは、自用地として取り扱われます。

メリット
① 他人の権利が介在しないため売却が容易であり、多額の現金が手元に残ることから、相続税の納税資金の確保に適している。
② 自宅敷地は、配偶者や同居親族等が相続した場合には、330㎡までの敷地について特例により課税価額から80%の金額を減額できるため、相続税が低く抑えられる。
デメリット
① 控除する他人の権利がなく、相続税評価が高くなるため、結果的に負担する相続税額が高くなる。
② 貸駐車場にしてもアパート経営のような充分な賃料収入等が見込めず、収入を得る機会を逸す可能性が高い。
③ 土地を維持するために固定資産税等の費用負担を伴う。
特に貸駐車場の場合、建物が無いために固定資産税負担は高額になる。

 

自用地としての利用は相続税の納税資金を確保する方法としては有効です。

一方で、家賃収入が得られないうえ、更地の場合には高額な固定資産税が賦課されることから、資産の維持確保という観点からは不利な面も多く、自用地として保有するのは一部の土地にとどめておくほうが賢明です。

2)貸家建付地(アパート・貸家の建築)

土地の所有者が自ら建物を建て、有償で貸付に供しているその敷地を「貸家建付地」と言います。

貸アパート経営や戸建て住宅の貸付等がこれに当たりますが、親族に無償若しくは固定資産税相当の安い賃料で住まわせたりしている場合は自用地として取り扱われて評価が高くなる可能性があるので注意が必要です。

ここでは、使っていない土地があった場合に貸家を建てることについてのメリットとデメリットを考えてみます。

メリット
① 建物の賃貸借契約に基づくため、ある程度安定した相当額の家賃収入が見込まれ、生活費を確保したり相続税の納税資金をプールしたりすることができる。
② 建物の建築対価は、預貯金減少或いは借入金の増加により、相続財産を減額させる。
一方、新たに相続財産となる建物の相続税評価額は、一般的に建築対価よりも4~5割低い固定資産税評価額が採用されるため、その分課税価額が減少する。
かつ、借家人には借家権があるため、その分建物評価額を30%減額できる。
③ 借家人には借家権があるため、その敷地である土地の評価についても一定割合減額が認められている。
④ 建築資金がなくても、土地を担保に融資を受けることにより貸家を建築することが可能である。
⑤ 貸家の土地建物を相続した者が貸家経営を継続すれば、一定の条件下において200㎡までの敷地について、特例により課税価額から土地評価額の50%の金額を減額できる。
デメリット
① 立地条件が悪いのに無理に貸家を建てると、建物の老朽化とともに空室が増え、さらに修繕費がかさむことから、それを引継ぐ相続人の負担になる。
② 借入で貸家を建てた場合、元本返済および利息の支払義務が発生し、空室が増えると家賃収入でそれをカバーできなくなる危険性がある。
③ 家賃収入は建物の所有者に帰属するため、そのストックが相続財産を増価させてしまう可能性がある。

 

余った土地に貸家を建てる方法は、相続税の課税価額を一気に減少させることができるため、大変魅力的です。

しかし、需要が乏しく、貸家を建てることがその土地の活用方法としてふさわしくない場合には、過大な借入とそれに伴う過大な利子負担により土地そのものの価値を低めてしまうことも少なくありません。

ですから、建築計画を立てる際には、充分なマーケティングリサーチやハウスメーカーの家賃補償条件等を総合勘案し、収支を検討する必要があります。

そして、収益力のある建物を手に入れることができた場合には、家賃収入のストックで相続財産が増価するのを防止するために、会社を利用したり、建築後時間をおいてから建物を相続人に買わせたりする等の方法も併せて検討すべきかと思います。

次に、最も土地の利用者の権利が強いケース、すなわち所有する土地の上に第三者の建物が建っている場合について考察していきたいと思います。

貸宅地について

更地に建物を建てさせた場合、土地の所有者はその土地を占有・利用することができなくなるため、土地全体の価値のうち、専有・使用利用できる権利が建物所有者に移転します。

このことを、法律的には「自分の土地の上に第三者の建物を建てさせた場合、建物所有者は「借地人」となり、自動的に「借地権」という権利を取得する(土地所有者は「底地権者」となる。)。」と表現します。

借地権は借地借家法という法律で強く保護されているため、底地権者は借地人を簡単に立ち退かせることはできず、結果、土地を容易に処分することができなくなります。

そのため、底地権者である地主が亡くなって多額の相続税がかかることになった場合、土地以外に充分な現預金が無いと、相続税の納税資金の調達は非常に困難になります。

では、第三者の建物が建っている土地を保有している場合に、将来の相続税の支払いのために準備すべきことを検証してみましょう。

1)貸宅地の相続税評価の方法

建物が建っている土地のことを宅地と言い、そのうち、第三者が保有する建物が建っている土地を「貸宅地」と言います。

また、建物の所有者がその土地を占有する権利を「借地権」と言い、相続税の計算における貸宅地の評価は次の計算式で求められます。

自用地としての宅地の相続税評価額 ×(1-借地権割合)

借地権割合は地域ごとに決められており、路線価図や倍率表にその割合が掲記されています。

例えば、自用地の相続税評価額1億円、借地権割合60%の貸宅地の評価は

1億円×(1-0.6)=4000万円 となります。

権利関係は以下のようになります。

       ・土地全体の価値       1億円

       ・借地権者の財産       6000万円

       ・底地権者の財産       4000万円

その結果、借地権者は4000万円の底地を底地権者に使わせてもらうので、その使用料である「地代」を支払う義務が生じます。

2)地代の見直し(契約の見直し)

貸宅地から土地所有者が得られる収入は地代と更新料しかありません。

これらの収入をなるべく使わないようにプールしておくことは勿論大事ですが、地代を定期的に見直すことも忘れてはなりません。

一旦土地貸付が始まってしまうと土地の価格が上昇しても地代を上げるのは簡単なことではありませんが、底地の使用料である地代は土地の価格に連動して上下するので、土地の価格に連動する固定資産税を土地の名義人である地主が全額負担していることを踏まえれば、地代を定期的に見直すのは当然のことと言えます。

一般に土地の使用料は時価の6%/年が目安とされているので、底地権の価値上昇があればそれに連動した地代の見直しは必須です。

地代の額の定期的な見直しに関する事項は底地権者と借地権者の間で締結する土地の賃貸借契約書に従うため、改めて契約書を見直し、必要ならば契約書そのものの再作成を検討してもよいかもしれません。

3)換価

貸宅地は借地人が占有しており、立退きが実現するまでは何もできないことから、換価して相続税の納税資金を確保するのは困難だと言わざるを得ません。

しかし、借地人が亡くなってその相続人が借地権を処分したいと考えていたり、もしくは、高齢の借地人が、老後の生活費を確保するために立ち退き料を得て、賃貸住宅に移転したいと考えていたりする場合も少なくありません。

また、借地人が底地を買い取って土地そのものを自分のものにしたいと申し出てくる場合もあります。

しかしながら、地主側に多額の立ち退き料を用意することは難しいので、ここでは、そのような場合にどのような方法で換価を実現できるかについて検証していきます。

1)借地権を買い取ってから自用地として第三者に売却する方法

借地人との間で立退料の合意を得た後、土地を担保にして銀行から融資を受け、それを元手に立ち退き料を支払って立退きを完了させます。

それから別の第三者に土地を売却し、銀行借り入れを返済する方法です。

2)借地人に底地権を買い取ってもらう方法

借地人に充分な資金力と買取の意思がある場合に有効な方法です。

3)土地全体を分筆し、交換手続きを通じてお互いの持分に応じた独立した土地に所有権を集約して、取得した自用地を第三者に売却する方法

まず、借地人との間で土地に対して保有する権利の割合について合意し、借地人と底地権者がお互いの保有する価値の割合になるように分筆します。

分筆した2つの土地を、それぞれが相当分の独立した土地として取得し、それを第三者に売却して換価する方法です。

 

いずれの方法によっても、借地人と底地権者の間で、採用する時価と借地権割合に関する合意が必要です(立ち退き料の額もそれによって変わってきます。)。

ここでいう時価と借地権割合とは、相続税の計算で用いられる評価額および決められた借地権割合と必ずしも同じものではなく、両者の合意によってのみ決まります。

そのため、この問題を解決するために弁護士等の専門家を介入させることが必要になることも多く、かなりの時間と労力が費やされることが見込まれます。

ただ、タイミングを逃すと次に換価できるチャンスはいつになるかわからないので、アクティヴな判断が求められます。

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